「神代の伝承」について

「神代の伝承」について
久しぶりに論文を書きます。題して「神代の伝承」についての研究論文です。本日、午前中からご祈祷などで忙しくしていました。暇な時間を有効に使い、書き上げたのが午後10時45分ですので、校正する時間がないために、誤字脱字は後日訂正します。
神道には「神話」という言葉はありません。私は「神代の伝承」という言葉が正しいのではないかと考えています。友人には「神代史」という言葉を使っているのがいます。本来、「神話」という語はないのです。そもそも「神話」という言葉が一般化するのは明治32年頃ではないかと思います。

「古事記」・「日本書紀」の神典によって伝承された「神代」のことを「神話」というのも抵抗があります。「神代」という言葉は、「記紀」では開闢の天つ神と称する「神代七代」という言葉以外に記載が見えません。しかし「万葉集」には使われている古い言葉です。

現在では、「神代の伝承」を「神話」と称しているのが一般化になっています。そして「あのような荒唐無稽なことがありえない」という考えが普通のように思われています。それは「神代の伝承」を文字に記された表面だけを読みとり解釈するからです。観念の世界で理解するからです。「神代の伝承」には、古代の人々の語り伝えられた目には見えない「事実」を表現しょうとしています。

21世紀になりまして、神道は最大の試練に立たされています。確かにお正月の三が日の初詣の参拝者数は増えております。パワースポットと呼ばれる神社に関する書籍も増えてきております。しかし神道は危機にさらされています。神道人として神道をいかに信じ、いかに考えるのか、それを知るための唯一の手がかりが「神代の伝承」です。貴重かつ重要な手がかりです。そこに語られている神々の御名の意味・性格・働き等を通じて、神道の基本的な祈りと信仰が伝えられているからです。

「神代の伝承」を通して『生』の起源・歴史の出発点・建国の理想・日本人の生き方・日本人の生活の根源として、目に見えない「こと」として、感慨をこめて、それは語られている事実を子孫にいかに継承できるのか、どのように教化して行くのか、重大にして深刻な問題です。あえて「神話」という言葉を使いますが、「神話」は世界中の国や民族にあります。日本にも「神話」があるのに子供の教育で教えていないのは日本だけであるという記事がありました。そこに神道の最大の危機があるのです。


時代の流れと共に「神代の伝承」の解釈は様々な方法で研究されるようになりました。過去、新井白石・賀茂真淵・本居宣長・平田篤胤等の先生方がおられますが、かなりの業績をあげられた先生は私の恩師、元皇學館大学学長田中卓先生です。田中卓先生は下記のように述べられています。

神功皇后の三韓征伐といえば歴史である。住吉大神の三韓征伐といえば神話である。古代人は神を奉ずる人であった。そしてその行動を物語るには、「神を奉ずる人」に重点を置く方法が「歴史」である。「その人の奉ずる神」を中心に伝承する方法が「神話」である。

田中卓先生は、「神話」と言われているものの裏に、史実があることを論証しょうとするのが、その研究である、と言われています。新しい視点に立った考え方です。田中先生には及びませんが、私なりの方法で「神代の伝承」の一端を語ろうと思います。

物にはすべて「はじめ」があります。宇宙にも「はじまり」があります。それは時間の「はじまり」でもあるのです。宇宙誕生の瞬間は「時間ゼロ」の時点です。宇宙の大きさもゼロです。ホーキング博士の「量子論」によりますと、宇宙は「無」から誕生したそうです。「無」とは全く何も無い世界ということになります。時間や空間やエネルギーは絶えず安定しないで揺らいでいる状態を、ホーキング博士は「無のゆらぎ」という言葉を使われています。そこから急激なインフーションが起きてビッグバンが生じて宇宙が誕生したことになっています。

これを「古事記」の神代から説明します。
天地初發之時。於高天原成神名。天之御中主神【訓高下天云阿麻下此】次高御産巣日神。次神産巣日神。此三柱神者。並獨神成坐而。隱身也。

天地初めて発けし時、高天原に成れる神の名は、天之御中主神、次に高御産巣日神、次に神産巣日神。此の三柱の神は並独神成り坐して、身を隠したまひき。

この最初に出てくる「天地初發之時」とある文章について、その訓は一定していません。
賀茂真淵―あめつちばめめてひらくるとき
本居宣長―あめつちのはじめのとき
山田孝雄(神宮皇學館大学学長)―あめつちはじめておこるとき
倉野憲司―あめつちはじめてひらけしとき

しかしそれよりも古代人の特有の表現があります。天地という宇宙が誕生して、その後、神さまが誕生されたことです。つまり唯一絶対の神が宇宙を創造したのではないということです。天地のはじめは単なる天地のはじめではないのです。時間のはじまり・空間のはじまり・次元のはじまり、あらゆるはたらき、一切の成立の可能性を開くものだと、古代人は考えたのです。

これはホーキング博士の「量子論」と同様な考えを古代人が持っていたことになります。これは驚きです。今もって宇宙の誕生が解明されていない時代において、時間・次元・空間の始まりを「天地初發之時」としているのです。古代人は天地の初めを、宇宙の誕生を想定して、それを高天原と呼んでいます。したがって古代人は高天原とは、『根本』に立った・『中心』に立った、つまり中心の確立を意味しているのです。

訓中の【訓高下天云阿麻下此】を説明します。高天原の「天」を〔あま〕」とあるので「たか・あまのはら」とも訓〔よ〕ますが、これは多く「天」を「アメ」と訓〔よ〕むのに対し、この語は「アメ」ではないということを示しています。「taka-ama」等の音韻〔おんいん〕は縮まるので「たかまのはら」または「たかまがはら」と訓みます。

高―無限広がる高低
天―空間・時間の「間」(ま)
原―無限に広がる横・水平

次に「天之御中主神」の御出現となりますが、「天之御中主」を分解しますと、「天」の「御中」の「主」つまり「まん中にいる主人公」の意となります。古代人は何もない天地・宇宙の中に何かの意識とまでは行かないけれども、一切に連続する何かを感じたのです。それは「こと」が有り、「存在」がある、一切の「存在」の「存在」には、根源的に「天之御中主神」の存在に由来していることを古代人は感じたのです。

ホーキング博士の「量子論」では「無」から誕生した宇宙は直径が素粒子より小さい、小さいミクロサイズで、「特異点」という量子的状態にあった、ということです。量子的宇宙とは、空間や時間が現れては消え、を繰り返している宇宙の事だと言っておられます。
そこから次のステップ急激なインフレーション(急激に膨張する)の時期をへてビックバンへと成長したと言います。しかし宇宙の始まりがビックバンからなのか、量子宇宙論の考えが正しいのかは、未だ不明です。
 
私はホーキング博士の「特異点」という量子的状態にある宇宙が、「天之御中主神」と御出現とよく似たところがあり、古代人が一切の「はじまり」はずるずると始まるのではなく、「はじまる」という中心の上に立つということの哲学のすばらしさを感じます。
それは「無」から「有」、「混沌」から「秩序」への「はじまり」でもあります。

次に高御産巣日神、次に神産巣日神が御出現になられます。この神さまは「むすひ」の神さまです。本居宣長先生の「古事記伝」では

凡て物を生成(な)すことの霊異(くしび)なる御霊を申すなり

とあるように、「むす」は生成、「ひ」は霊的な力を言うのです。日本人の賢さは「むすひ」の言葉を日常使っていることです。「息子」(むすこ)・「娘」(むすめ)のように使っています。また「縁結びの神さま」とか「結ばれた」とか言う言葉を当然のように使っています。しかし高御産巣日神・神産巣日神の「高」と「神」とが何を意味するのかは明らかにされていません。「陽」と「陰」・「男」と「女」・「高天原系」と「出雲系」等、区別されていますが決定的ではありません。

「古語拾遺」では、高御産巣日神を神魯岐(かむろぎ)命、神産巣日神を神魯美(かむろみ)命とする、と書かれています。私はこのことから古代の言語表現学から、神魯岐命の岐は高天原の「上」を指す言葉、神魯美命の美は高天原の「下」を指す言葉を意味します。私は下記の通り説を取っています。古代人は高天原には中心と上と下が存在すると考えたのです。

高天原の上におられる神が高御産巣日神
高天原の中心におられる神が天之御中主神
高天原の下におられる神が神産巣日神

次に「此三柱神者。並獨神成坐而。隱身也」について説明します。神さまを数えるときに「柱」の字を使います。それは「柱」の字は「木」と「主」の二つがあります。古代人は「木」には「あるじ」が宿られている、つまり樹木を神霊の依代(よりしろ・神霊が宿る場所・物)とする信仰に由来するからです。例えば三柱神(みはしらのかみ)・二神(ふたはしらのかみ)と言います。

次に「並獨神成坐而。隱身也」とは高天原の中心におられる神が天之御中主神・高天原の上におられる神が高御産巣日神・高天原の下におられる神が神産巣日神であるので、三柱の神さまは単独の神さまで、姿はなくとも確かに存在される神さまである、という意味です。この三柱の神さまが御出現になられて、「ゼロ」から「一」ができ、「一」から「連続」という働きができ、時間的と空間的な意味の「はじめ」ができ、今の私たちが住んでいる物質世界が誕生したと考えのです。これは私たちの祖先の思索で出来上がったものではありません。天地万物はすべて神さまの「神霊」が宿るという敬虔な信仰から生れたものであると思います。


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