「願う」「はふり」「いはふ」「のりとごと」について


「願う」「はふり」「いはふ」「のりとごと」について

神社にて祈願者が初宮・厄祓などでお祓いを受ける場合、祈願者の願い事を神職が祝詞を奏上して神さまにお聞き願うことになります。そこにあるのは祈願者の願いとそれを神さまに聞き入れてもらうために神職の祝詞奏上です。これを上代の言葉で考察してみます。
『万葉集』10巻2309に読み人知らずの歌に次のよう歌があります。

祝部(はふり)らが 斎(いは)ふ社(やしろ)の 黄葉(もみちば)も 標縄(しめなは)越えて 散るといふものを

解釈しますと、神官たちが大切に育て祭っている社(やしろ)の黄葉(もみちば)も、標縄(しめなは)を越えて、散るというのに、という意味になります。

上代において祝部(はふり)は、神さまに奉仕し祭儀などを行う人ですが、宮司や禰宜の下にいた神職のことです。「はふり」の「は」は「羽」で「ふり」は「振り」のことです。「羽振り」とは神楽や舞を行い、神さまを楽しませる神職のことです。あるいは「はふり」は「はらふ」の意味である、という学者もいます。上代において祝詞を奏上するだけではなくお神楽や舞を行う神職がいたのです。

同様に、「いはふ」は「言う」を続けることを意味します。要するに上代では、神様を大切にする気持ちを繰り返し言うことで、さらに呪術や祭祀を行うという意味でもあります。これが「斎ふ」という言葉 になったのです。

そうすれば何を繰り返し神さまに申し上げるのは何か、ということになります。それが祝詞(のりと)です。祝詞の語源は、「のりとごと(宣之言・宣処言・宣呪言・詔之言)」とする説が有力で、「のり」は「宣言する」や「言う」を意味する動詞です。また「のり」は「名のり」という大和言葉に語源を持つ言葉なので、神さまに「重大なことを告げること」を意味しています。
「と」は「場所」「所」を意味し、祝詞を神さまに奏上する場所で、「ごと」とは神さまに申し上げる祝福の言葉という意味です。「のりとごと」には、祝詞を奏上する行為と祝詞を奏上する場所が神聖であることが条件になっていると思います。次に『万葉集』17巻・4031の大伴家持の歌を記述します。

中臣(なかとみ)の太祝詞言(ふとのりとごと)言ひ祓(はら)へ贖(あか)ふ命も誰(た)がために汝(な)れ

中臣氏の神主を呼んで立派な祝詞を申し上げ、お祓いをして、お供えを奉ることで長命を祈ったのは誰のためか、ほかならぬお前の命のためなのだ、という意味です。「あがふ」は「あがなふ」の古形であり、『名義抄』によれば、第二音節は清音であり、上代では「あかふ」と濁らず訓じていたのです。財物を代償として差し出して罪を祓い、無事や長命を祈る様をいうのです。

ここには祈願者の神さまに対しての「お願い申し上げます」という気持ちがなければなりません。「願う」は、大和言葉では「ねく」・「ねぐ」という言葉から出ています。に「ふ」がついた言葉で、大和言葉では「ねぐ」とは「和らげる」という意味になります。神様の心を和らげて、何度もその加護を願うことだったのです。神職の職称の一つに「禰宜(ねぎ)」と言うのがあります。一般神社では宮司の下位にあります。禰宜の言葉も「ねぐ」から語源が出ています。これは神の心を 和ませて、その加護を願う仕事を指します。祭祀に専従する者を指していました。

そして神さまが降りてこられたら「のりとごと」を申し上げたのです。上代日本人にとって、神さまとはそのような身近な存在であったのです。

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