斉明天皇と太田皇女


斉明天皇と太田皇女
斉明天皇は越智崗上陵(おちのおかのえのみささぎ)に葬られたとされ、宮内庁により奈良県高市郡高取町大字車木にある車木ケンノウ古墳(円墳、直径約45メートル)が皇極・斉明天皇陵に指定されていました。しかしながら研究者の間では明日香村の牽牛子塚古墳(けんごしづかこふん)が陵墓として有力視されておりました。そのほか同村の岩屋山古墳、橿原市の小谷古墳も候補としてあげられていました。

「日本書紀」には、斉明天皇と娘の間人皇女(はしひとのひめみこ)が667年に合葬され、斉明天皇陵の前に孫の大田皇女(おおたのひめみこ・中大兄皇子の娘)が葬られたと記されています。牽牛子塚古墳には石室が二つあり、今年の平成22年9月には、7世紀の天皇陵に特徴的な八角形墳と判明し、斉明陵であることが確実になったと思います。今回の発見で、牽牛子塚古墳が斉明陵である根拠となりうることは確かです。

平成22年12月12日、明日香村の牽牛子塚古墳の説明会が調査にあたった同村教育委員会主催で行われました。

「日本書紀」の斉明天皇紀わ紹介します。

 五月に、皇孫(みまご)建王(たけるのみこ)、年(みとし)八歳(やつ)にして薨(う)せましぬ。今城の谷の上に、殯(もがり)をたてて収む。天皇、本より皇孫の有順(みさをか)なるを以て、ことにあがめたまふ。故(かれ)、不忍哀(あからしび)したまひ、傷みまどひたまふこと極めて甚(にへさ)なり。群臣(まへつきみたち)に詔して曰(のたま)はく、万歳(よろづとせ)千秋(ちあき)の後に、かならず朕(わ)が陵(みささぎ)に合せ葬(はぶ)れとのたまふ。すなはち作歌(うたよみ)して曰はく (三首)

今城(いまき)なる小丘(をむれ)が上に雲だにも著(しる)くし立たば何か嘆かむ(日本書紀)

通釈しますと、今城の地に建王の殯(もがり)の宮を建てた。そこの小山の上に、せめて雲だけでもはっきりと立ったなら…それを亡き王の霊と眺めて心を慰めよう。嘆くことなどありはしない。

今城 孫の建王の死体を安置した場所です。曾我川上流一帯の古名(岩波大系本)。奈良県吉野郡大淀町に今木の地名が残っています。語源は「今来」で、渡来人の移住した土地です。
参考歌、作者未詳「万葉集」巻11
雲だにもしるくし立たば慰めて見つつもをらむただに逢ふまでに


射ゆ鹿猪(しし)をつなぐ川辺の若草の若くありきと我が思はなくに(日本書紀)

通釈しますと、弓を射られた鹿や猪の足跡を追ってゆくと、川のほとりに出る。そこに生えている、萌え出たばかりの草のように、あの子は幼かっただろうか? いいや、幼すぎたとは、思わないけれども、それでも悔やまれてならない。

飛鳥河水漲(みなぎら)ひつつ行く水の間(あひだ)も無くも思ほゆるかも(日本書紀)

通釈しますと、飛鳥川は、水があふれるように盛り上がりながら、絶え間なく流れてゆく。その水のように、いつもいつもあの子のことが思い出されるわ。

中大兄皇子と遠智娘(とおちのいらつめ)の間には三人の子がいましたが、大田皇女は長女で妹は後の持統天皇で、母は651年に弟の建皇子(たけるのみこ)を産んで、間もなく死亡されました。長男の建王(たけるのみこ)は生まれつき口をきくことが出来なかったのです。大人しく可愛らしい子だったので、斉明天皇はこの孫をことに偏愛しました。ところが八歳の年の夏、死んでしまったのです。今城の谷の上に、もがりの宮を建てて棺を収めた。天皇の悲嘆は甚だしく、群臣たちを前にして、自分の死後は必ず王と合葬するように命じました。この時よんだのが上の三首です。
王が死んだ同じ年の冬、天皇は紀の湯に行幸されました。建王を思い出し、悲しんで泣いた。声に出してつぎの三つの歌をよみ、「この歌を伝えて、世に忘らしむることなかれ」と命じられたのです。

最初、大田皇女の御陵が発掘されたとき、私は建皇子の御陵であると思いました。そうしますと、斉明天皇の御陵が発掘されますと、建皇子が合葬されていますので、石棺は二つ出土されると思います。大田皇女は妹とともに叔父の大海人皇子(おおあまのみこ、天武天皇)の后となられます。斉明天皇の時代だった661年に父や夫とともに朝鮮半島の百済救援の戦争のために九州へ赴くが、その途中で大伯皇女(おおくのひめみこ)を産み、663年には娜大津(なのおおつ、福岡市博多区付近)で大津皇子(おおつのみこ)を産まれました。帰京後、天武天皇の即位前に亡くなり、667年に祖母にあたる斉明天皇の墓の前に葬られました。



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ムスヒ

いつも、楽しみに拝見させて頂いております。なるほど、そうなんだ~。と、いつも、お勉強させて頂いています。
万葉集などの解説が素晴らしいなと、感じています。
by ムスヒ (2010-12-16 12:45) 

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