三島由紀夫先生と太宰治の共通点

三島由紀夫先生と太宰治の共通点
中学生のころに太宰治のいくつかの作品は読んだことがあります。「人間失格」「斜陽」「ヴィヨンの妻」など、すばらしい作品だと思いました。高校時代の現代国語の教科書には、『走れメロス』が載っていました。私の青春時代の太宰治に関するイメージは、女性と入水心中したという死に方で軟弱で気弱な男性であると思っていました。

さらに高校生の頃、三島由紀夫先生の「花ざかりの森」などの作品と「人間失格」を比較して読みますと、実に面白いことが分かりました。三島先生は男らしさを強調され、太宰治の苦労知らずのブルジョアの坊ちゃん的な性格を丸出しにして書かれていることです。

三島先生から見れば、太宰治のように、エゴイズムだけで生きている人間がいやで、たまらなかったと思います。しかし私が皇學館大学の学生時代に三島先生と何回かお会いしますと、不思議なことに、三島先生と太宰治には共通点がある、ということです。それは『天皇陛下万歳』ということです。太宰治は戦後突如、『天皇陛下万歳』と言い出したのです。
そのことを理解するのに重要な著作として、太宰治の「苦悩の年鑑」があります。その中のいくつかの文章を抜粋します。

①天皇の悪口を言うものが激増して来た。しかし、そうなって見ると私は、これまでどんなに深く天皇を愛して来たのかを知った。私は、保守派を友人たちに宣言した。

②十歳の民主派、二十歳の共産派、三十歳の純粋派、四十歳の保守派。そうして、やはり歴史は繰り返すのであろうか。私は、歴史は繰り返してはならぬものだと思っている。

③まったく新しい思潮の擡頭を待望する。それを言い出すには、何よりもまず、「勇気」を要する。私のいま夢想する境涯は、フランスのモラリストたちの感覚を基調とし、その倫理の儀表を天皇に置き、我等の生活は自給自足のアナキズム風の桃源である。

もうひとつ「十五年間」という手記があり、その終わりに

日本に於いて今さら昨日の軍閥官僚を罵倒《ばとう》してみたって、それはもう自由思想ではない。それこそ真空管の中の鳩である。真の勇気ある自由思想家なら、いまこそ何を措《お》いても叫ばなければならぬ事がある。天皇陛下万歳! この叫びだ。昨日までは古かった。古いどころか詐欺だった。しかし、今日に於いては最も新しい自由思想だ。

と書いてあります。さらに「パンドラの箱」という短編の中に出てくる一場面ですが、太宰治は、自身の考えを次のように言っています。

アメリカは自由の国だと聞いている。必ずや、日本のこの自由の叫びを認めてくれるに違いない。わしがいま病気で無かったらなあ、いまこそ二重橋の前に立って、天皇陛下万歳! を叫びたい。

私は太宰治が一番言いたかったことが、この文章ではないかと思います。そして「この叫びのもとに死すべきだ」と言ったことが、なぜか三島由紀夫先生と重なってしまうのです。

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