瀬戸際に立つ温家宝首相

瀬戸際に立つ温家宝首相
平成23年1月、北京・天安門広場東側に面した国家博物館前に突如、9.5メートルの巨大孔子像が登場しました。しかしその3カ月後の平成23年4月にはまた突然、撤去されました。

中国社会の安定と秩序を回復し、中華文化を復興させるため胡錦濤を初め党幹部の指導部は「和」の象徴である孔子を持ち出したのです。しかし天安門には毛沢東主席の巨大肖像画が掲げられています。文革時代に毛沢東主席は「封建的」として孔子や儒教を徹底排斥した。いわゆる批林批孔運動です。批林とは林彪を批判することです。批孔とは孔子を批判することです。毛沢東主席は、自分の後継者林彪と孔子を同格とみて批判していました。

 そのことから毛沢東主席を今も信奉する幹部にすれば、孔子像に反発していました。ところが北京に住む私の留学時代の同級生も中国の民主化の推進を進めているために、孔子は「専制」の象徴として映り、「いまさら何で孔子なのか」と感じていました。同級生によると、天安門広場は政治的に敏感な場所であるのに、なぜ孔子像を建立したのか、理解に苦しむといっていました。

これを私なりに分析します。安定最優先の中、孔子像をめぐる議論が政治化してしまったのは、中国共産党は今、まさに政治の季節に入ろうとしているのです。国内では孔子の評価をめぐり激しい論争が巻き起てます。それと同時に共産党 上層部の権力闘争が絡んでいます。
 
先ずなぜ、天安門事件以来、政治的敏感な場所に孔子像を作る必要があるのか、という問題です。もし孔子像を建立するならば、実力者温家宝首相の同意がなければ出来ないと思います。おそらく温家宝が同意したのです。なぜならば温家宝は、天安門事件のきっかけにもなった胡耀邦を「師」と仰いでいます。

また2010年4月15日、温家宝は人民日報に胡耀邦を偲ぶ回想記を発表しています。胡耀邦氏が現場の状況を理解しようとしていたことは明白であり、指導者は民衆の苦しみを子細に観察し、直接の資料を把握しなければならない、という胡耀邦氏の言葉が温家宝には忘れられないのです。さらに「清廉潔白で親しみやすかった姿が今でも懐かしさとともに思い浮かぶ」といっています。

温家宝は胡耀邦の死去の際に、入院先に真っ先に駆けつけた人物です。さらに温家宝は毎年旧正月の時期になると胡耀邦の居宅を訪問し、胡耀邦の肖像画を見ることを年頭の恒例行事としています。

この実力者温家宝に対して支持を表明したのが、中央民族大学の牟鐘鑑教授ら13人の学者です。今年2月、私が留学していた頃の中央民族学院、ここは少数民族のエリートを洗脳し漢民族化するための共産党直属の学校で、現在の中央民族大学の13人の学者らは、天安門広場の孔子像建設を 「中華文化の復興を象徴し、少数民族を思想的に統一し、中華民族の精神的再建につながる」と支持する共同声明を発表したのです。

ところが高級幹部子弟グループ「太子党」など天安門 の楼上に、孔子に批判的な中国建国の父・毛沢東主席の肖像画が掲げられているため、「毛主席と孔子を一緒にするな」「封建主義の復活を阻止しなければ」などの反対意見 が寄せられました。 その結果、孔子像が突然、撤去されたのです。


高級幹部子弟グループ「太子党」の大物薄熙来は、革命第1世代の保守派重鎮・薄一波を父親に持ち、今も絶対的な存在である毛沢東主席を持ち上げています。この「太子党」に温家宝らは屈服したのです。

さらに学閥の問題も見え隠れします。共産党指導部が幹部を登用する際、清華大学、北京大学のバランスを考慮しているのが現状です。現在の政治局常務委員のうち胡錦濤、呉邦国全人代委員長、習近平は清華大出身、次期首相の呼び声が高い李克強副首相は北京大出身です。ところが温家宝は北京地質大学の卒業です。温家宝は学閥外の出世です。その温家宝は胡錦濤のバックに控えております。習近平は「太子党」です。

平成22年10月5日の未明、ベルギー・ブリュッセルにて菅直人と会談した際、菅が尖閣諸島について「わが国固有の領土であり、領土問題は存在しない」としたのに対して、中国の温家宝が「中国固有の領土だ」と主張したことがありました。

平成22年5月末に来日した温家宝首相と鳩山由紀夫首相(当時)の間で合意した日中間の「ホットライン」がありますが、そのときは平成22年10月まで、菅首相ばかりか、外相レベルでも機能しなかったのです。おそらく日本の外務省や首相側近などが温家宝首相は「落ち目」の人物だと評価したと思います。

また温家宝中国首相は平成23年5月13日、北京市内で米倉弘昌日本経団連会長を団長とする経団連の訪中団と会談し、東日本大震災に触れ、「21日から東京で開かれる日中韓首脳会談の際に私は日本の被災地にお見舞いに行きます」と言明したのです。温首相はまた「日本人は大きな自然災害に直面しているが、中国人民は皆、自分のことのように感じている」と話していました。

 これは中国国内に向けたパフォーマンスです。温首相は被災地慰問で震災被災地との連携や日中友好を強調するとみられます。慰問先は分かりきったことです。震災の際、宮城県女川町で中国人研修生を避難させた後、行方不明になった佐藤充さんのご家族に感謝することになるでしょう。

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